Method of orthodox school's breeding -正統派の繁殖方法-

2007年春 作成 **このページは予告無く変更する場合もあるかもしれません** 

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何が乱繁殖なのか
  • 乱繁殖とはメッタヤタラに増やすだけの繁殖=増殖( 例え1頭でも!)させること
    • 犬の繁殖とは、遺伝を出来るだけ理解し、予想し、結果を出す努力をすること。
      • 「ウチの子の子犬が見たい」繁殖は普通、どんなに愛情深くても乱繁殖です。
        一言で言えば血統を遡ってデータを集めた上で判断をしていないから、です。

    • 遺伝の理解とは遺伝の仕組みそのものや、既に判明している遺伝病の種類や遺伝形態を知ること。
      • 病気や体質だけでなく性質の遺伝を考慮することももちろんですし、
        そのためには犬種の基準を理解していなければ何を伸ばし何を消していくのかが不明です。
        家庭の伴侶犬を作ることが目的であれば、繁殖犬も家庭で家族同然に飼養するのが当然のことです。
        詰め込み犬舎で一日の大半を過ごす犬の全頭は、日常のどのシーンが好みであるとか
        見知らぬ他人や他犬に対する態度、問題の解決の仕方などを考慮されずに親にさせられています。
      • 性質について・・【氏か育ちか】は、どちらか一方だけではありません。
        まず【氏】があって【育ち】で上書きも修正もされることは周知の事実です。
        また【育ち】に力を入れる(家庭犬としてのしつけや訓練を施す)ことによって、
        如何ともしがたい【氏】が浮き彫りになるケースもあります。

    • 予想し結果を出すとは血統の組み合わせにより先祖より優れた個体を作出することや
      さらに作出した犬の次世代以降の繁栄について思いをめぐらせることなどです。
      • 少なくとも繁殖とは祖先より肉体的にも精神的にも劣る犬を作出しない努力をすることで
        ただ何となく願ったり神頼みでどうにかなるものではなく、判明している事実はきちんと学び、
        データを揃えて挑めば回避できる不幸が山のようにあることを知ることです。
        ○○種だから○○の病気に罹って当然・・と言うのは不勉強な乱繁殖と言っているのと同じです。

  • 繁殖のメインイベントは出産じゃない
    • 『ブリーダーの役割』は“交配の介助をして出産の手伝いをして哺乳の補助をして子犬を売ること”
      と認識されておられる方もおいでですし、多くの自称ブリーダーはそのようにしているでしょう。
      ですが交配や出産や離乳までの育児そのものは、繁殖全体のほんの一コマに過ぎません。
      ブリーダーのおこなったブリードが終わるのは、子犬を売った時点では決してありません。
      作出した犬の血筋 -遺伝子- が続く限り、続くのです。
      子犬の父犬と母犬を選んだのは繁殖者自身なのですから。

    • よく、『自然の摂理に則って交尾をして子犬を産んだ』と表現する場合がありますが
      犬の自然な状態の繁殖は、我が国ではあり得ません。
      今も昔も犬は人間が作っているのです!

    • 私たち人間や、家畜・ペット以外の多くの野生の動物のように、
      たくさんの同種の個体群の中から、健全性や強さや美しさや賢さなどを基準に
      己の好み(=究極には己の責任)で配偶者を選び、子を産み育てるのであれば
      同じ形質を持つ劣性遺伝子によって遺伝病が出たとしても“運命”と言えるでしょう。
      そしてそれによって何らかの障害が発生したらそれは“個性”とし、認めるのが当然です。

  • が、犬は違います。
    • 現在我が国では狂犬病予防法により、飼い主のいない犬は存在を許されていません。
      つまり総ての犬は飼い主の意向によって繁殖をさせられています。
      或いは管理の不行き届きによる繁殖も、責任は保護者である人間にあります。
      野生の犬がいない日本では、野犬が子を産み育てるのも人間の責任という点では同じことです。
      誰かが飼育を放棄したから、誰かが不妊手術を怠ったから、野犬が存在します。

    • 物理的に子犬を産むのは父犬の助けを借りた母犬なのですが
      子犬を作り出しているのは飼い主・・人間にほかなりません。
      時期が来れば発情し、異性と交わり子を産み育てることはたしかに自然の摂理です。
      しかし犬の場合はそれ以前に遺伝子の選択を人間がしているという点を我々はどうも忘れがちなのです。

    • 親犬に発現していないからわからなかった、と遺伝による病気の原因を持たされるのは
      野生動物における“運命”とは違い、繁殖者の不注意以外のなにものでもありません。
      もし野生であればとっくに自然淘汰(例えば捕食者の餌食に)されてしまうような弱い個体も
      本来なら1頭のメスにも見向きもされない美しくない(スタンダードから外れる)個体も
      生体販売の売価のため、飼い主が子犬を見たいというそれだけの理由のため、
      子孫を作らされています。

    • 高い健全性と性質の良さを限りなく約束された子犬を生み出すことも、
      遺伝情報に遺伝病を発症すると書き込まれた子犬を生み出すことも、
      どちらも繁殖者のデータの質や量とモラルによって大部分が決まってしまうのです。
      どんなに有名で立派に見える犬舎でも、遺伝の背景を考慮しない繁殖であるなら乱繁殖ですし
      様々な点に可能な限り配慮できるのなら、たった1頭の愛犬の繁殖でもシリアスブリードになり得ます。

血統書
基本的にJKCのものについてです。基本は他団体もあてはまることが多いですが。

血統書って何ですか?と聞けばたいてい「その犬種であることを証明するもの」と答えが返ってきますから
「人間の戸籍のようなもの」「血統書発行団体が太鼓判を押して証明してくれるもの」「品質保証書」
なんて受け取ってしまいがちです。
まあ、まるっきり嘘ではないし、間違ってはいないのですが・・(苦笑)。

  • 人間の戸籍のようにどこの誰から生まれたかを証明する
    • とりあえずその通りですが贋物も簡単なんです。
      あまりにも贋物が多いのでJKCでは03年9月からDNAの登録制度を取り入れて義務付けています。*1

    • 死亡した犬の血統書を返還すれば返金されることもあるようです。*2

    • 20歳以上(笑)の犬が交配したなんて申請があれば確認しようとしたりという話しを聞きました。*3

    • 例えば小型犬が一度に多胎児を産みましたなんて申請があっても06年1月から確認しようとしています。*4


    信用性を高めるためにJKCもかなり頑張ってくれています。

    *1 ネット上でしょっちゅう間違った記述を見かけますがJKCがおこなっているのは『DNAの登録』です。『DNA鑑定』ではありません。
    また、もちろん遺伝性の疾患について何らかの検査をしクリアした証明でもありませんし
    DNA登録済みの父犬が血統書に記載されていても、あえて調査をしなければ親子鑑定がされたわけではありません。
    『登録されたDNAデータは、繁殖者の申請書に基づいた登録犬の個体識別を目的として本会が管理し、
    万一当該犬に係わることがあった場合に使用させていただきます。』〜JKC犬籍部〜


    *2 JKCでは名義変更から6ヶ月以内に本犬が死亡した場合、所有者の申し出によって返金する制度があります。

    *3 DNAの登録制度が出来る前には実際に多く見かけられたことです。
    スタッドブックを見ると10歳以上が親になっているケースがたくさんあります。
    とくに○○チャンピオンになると・・15歳や20歳の(父犬ならともかく)母犬までいたりします。

    *4 以下の場合は信憑性を期すために一胎子と母犬が同時に収められた写真の提出が必要です。
    シェルティーやコーギーなどは9頭以上、ポメラニアンやチワワやパピヨンなどは7頭以上。
    06年11月現在で59種の犬について、出産頭数が多い場合の一胎子申請の規定があります。
    参考  ジャパンケネルクラブ JKC
  • 血統書発行団体が証明
    • 団体は記載事項について基本的には実質、真偽の確認はしません。あくまでも申請者の申請を受理するだけです。

    • だから血統書上ではオレンジなのに実際はクリーム色・・なんてのがよくあることなんですね。

    • 極端なことを言えば白毛の犬を黒毛と申請しても受理=証明されると言うことになります(笑)。

  • 品質保証書
    • ものすごく犬種基準から外れていても血統書は発行されますし、
      どんなに性質が良くなくても、重大な遺伝性の疾患のキャリアーでも発行されています。
      決して品質を保証してはいません。

遺伝病を出したくない
これは、すべての繁殖者の共通の願いですよね。
一見ひどい乱繁殖現場に見えてしまう不衛生で営利が目的な繁殖場でも、
病気の犬や奇形の犬やひ弱ですぐに死んでしまう犬は出ない方がいいんですから。
どうしたら極力病気の犬を出さずにいられるかの理論は簡単です。
病気を持つ犬を親にしなければいいだけです。

しかし優性遺伝する病気はある年齢に達しないと発症しなかったり
症状に個体差があって病気だと気付かない場合もあります。
劣性遺伝する病気はキャリアーなら目には見えないものなので
大きな病を持たされて産まれた子犬を見て初めてわかることもありますし、
病気が発症する前に繁殖者の元を巣立ち音信不通になってしまうので気がつきません。

遺伝病の全部が悪いものだと言う訳ではありません。
たとえば出来る範囲の調査や検査を全て終えても染色体異常は起こります。
ただ、人間が自然の摂理に勝手に手出しをして繁殖をおこなう以上は
生まれる子犬たちは限りなく健康であるべきではないでしょうか。
何よりも多くの繁殖者が症状や遺伝形態など遺伝病について深く学ぶことが必要とされます。


参考  OMIA 495種の遺伝病など (2009年8月現在)  2017年4月には697種に増えていました。ブリーダーを名乗るなら全チェックよろ
悪徳ブリーダーの線引き
これは明確な線は引けないものかもしれません。
もちろん繁殖者本人が「充分に手を掛けている」と思っている犬の飼育場が
愛護団体の人間が見ると「レスキューの必要性あり」となるケースもあります(笑)。
犬の育て方や飼い方には、「たしかにこうでなければならない」としたものはありません。
“自由の国・日本”ですから、法律のルールを破らず他人に迷惑をかけない限りは
好きなように犬を飼えばいいと思われています。

しかし、犬という生き物の習性や本能に真剣に思いを馳せた時、
人間との触れ合いがいかに必要であるかに気がつきます。
公衆衛生について一度でも真剣に基本を学べば
雑居房のような犬舎がどれだけ不衛生で恐ろしいかに気がつきます。
何よりもブリーダーは、人間のパートナーになる犬を作っているはずです。
それらが人間に教育されていなかったり、人間にも害を及ぼす寄生虫を持っていたり
人間社会で愛されて暮らすための基本を親犬が持っているかいないか不明とは
これ以上支離滅裂なことはないでしょう。

家庭犬でも伴侶犬でも使役犬でも繁殖犬でも、その用途が何であれ、
犬は私たち人間の役に立つ動物として長い期間をかけて繁栄し続けています。

実は、悪徳ブリーダーはとても少ないのではないかと私は考えています。
実際に多くのレスキューされた崩壊繁殖場の所有者は、
たまたま自身の都合(病気や事故による入院や店の倒産など金銭的なこと・・などでしょうか)で
それ以上の飼育・繁殖・販売などが立ち行かなくなった時に初めて
第三者の意見を耳にして自分のやり方がまずかったことや間違っていたことに気付くのですから。

この問題はそう言う訳で、改善はなかなかに難しいものです。
悪徳ブリーダーは自分の出来る範囲では最良の方法で繁殖を続けているので。
ごく普通に清潔な環境で1頭の犬を大切に飼っていれば考えられない寄生虫も、
元気な成犬には普段は命に別状が無いのでごっそり発生してても気にならないかもしれません。
そしてその犬を膝に抱いたりオフ会に連れて行く訳ではないので、盲目でも難聴でも皮膚病でも
「餌も水もやって、時々掃除してやっている。叩いたりはしていない」
ので、虐待してはいないと言うかもしれません。


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